【論文掲載】VR技術により野球の「選球眼」を科学的に解明

選球能力と実行機能が打撃成績に独立して貢献することを発見
研究成果の概要
越智元太講師、加藤昂大くん(2023年度卒業)らは、野球打者の選球能力(ストライク・ボールを見極める能力)を科学的に評価する新たな手法を開発し、選球能力が実際の打撃成績と密接に関連することを実証しました。本研究成果は、2025年10月17日付けでスポーツ科学分野の国際専門誌「Sports」に掲載されました。
研究の背景と目的
野球において「選球眼」は打撃成績を左右する重要な要素です。優れた選球眼を持つ打者は、四球を選ぶ確率が高まるだけでなく、打ちやすいコースの球を選んで打つことで打率向上にもつながります。しかし、これまで選球能力を客観的に測定し、トレーニングに活かす方法は確立されていませんでした。
本研究では、VR(バーチャルリアリティ)技術を活用することで、実戦に近い環境で選球能力を定量的に評価する手法を開発しました。
研究手法
測定項目:
- VR選球課題:360度カメラで撮影した実際の投球映像80球をVRヘッドセットで提示し、ストライク・ボールの判定を実施
- 空間ストループ課題:画面上の矢印の向きと位置の一致・不一致を判定させ、実行機能(空間的干渉処理能力)を評価
- 打撃成績分析:2020年秋季から2023年秋季までの公式戦データから打率、出塁率、四球率などを集計
主な研究成果
- 選球能力と打撃成績の関連
- VR選球課題の正答率が出塁率(r = 0.57)および四球率(r = 0.82)と有意な正の相関を示しました
- 特にストライク判定の正確性が重要であることが判明
- 実行機能との関係
- 空間ストループ課題(垂直方向)の反応時間が速い選手ほど、ストライク判定が正確(r = -0.67)
- 認知処理速度が選球能力の一部を支えていることを発見
- 独立した貢献
- 媒介分析により、選球能力と実行機能がそれぞれ独立して打撃パフォーマンスに貢献することを実証
研究の意義と今後の展開
本研究は、これまでブラックボックスとされてきた野球の「選球眼」を科学的に評価する画期的な手法を確立しました。VR技術を用いることで、実際の投球場面を簡便に再現でき、選手の選球能力を客観的に測定することが可能になりました。
今後は、VRを用いた選球トレーニングプログラムの開発や、認知トレーニングとの組み合わせによる総合的な打撃能力向上プログラムの構築が期待されます。これにより、野球選手の競技力向上に大きく貢献できる可能性があります。
研究情報
論文タイトル:Pitch Selection Ability and Spatial Executive Function Independently Predict Baseball Batting Performance
著者:森下義隆¹²³*、越智元太¹²†、高橋大希²、加藤昂大²、内山航⁴、西原康行²
(*筆頭著者、†責任著者)
所属:
- 新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所
- 新潟医療福祉大学健康科学部健康スポーツ学科
- 大阪経済大学人間科学部
- 新潟総合学園
掲載誌:Sports
研究助成:JSPS科研費 22K11644(代表:森下義隆)、22K17739(代表:越智元太)